妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
村の中央に雲を貫く大木が立っている
それは鴉天狗達の居城
長の命で妖の国を飛び回り、時には余りにも殺生が過ぎる妖を止めたり大工仕事をしたりと様々な仕事をこなす
鴉天狗は職人が多く、[手に職を]が鴉天狗達の座右の銘である
「親方、奥方。紅緋が来ましたよ」
「おおっ!よく来たな紅緋!」
「あらまぁ。来るとわかっていたら南蛮菓子でも用意したのに…」
樹の最上部にたどり着いた紅緋は膝を折り頭を下げる
先にいる親方と呼ばれた恰幅のいい大きな鴉天狗こそこの村の長
その隣で穏やかに笑う女性は人の形をとっている妻である
「長殿、奥方様、お久しゅうございます」
「そう畏まるな!顔を上げて別嬪の顔を拝ませてくれ!」
「楽にして頂戴。本当に綺麗になったわねぇ…。そうだ、あれを持って来てくれる?」
豪快に笑い飛ばす親方に、紅緋は顔を上げて苦笑する
「長居はいたしませぬ。我が主の命により書状を渡しに参じたまで。渡したら直ぐに帰るよう言われております故」
紅緋は恭しく親方に書状を渡す
受け取った親方は不満そうに書状を摘まんで無意味に揺らす
「なんだつまらん」
「過保護が過ぎるのですよ。我が主は」
「本当に。村には恩人がいるんだから長期滞在くらい許してくれてもいいと思わない?」
「…それ、どっちに言ってます?」
鈍のツッコミを無視して奥方が至極残念そうに息を吐くと、女の鴉天狗達が立派な桐の箱を持って来た
軽く礼を言って下がらせると奥方は蓋を開ける
そこには黒の着物があった
無地だが光沢があり美しい
「抜けた羽根を織って作った物だけど、今度来る時着て来て頂戴」
「そんな、私には勿体無い…」
「いやいや、お前ならぴったりだと思うが」
「そうよ。ちゃんと普段使い出来るように丈も短めにしたんだから!」
しかし、と言い淀む紅緋に鈍が言う
「…貰ってくれ。後でやいやい言われるのは俺だ」
そう言われ、紅緋は申し訳なさそうに頭を下げる
「…では慎んで。有り難く頂きます」
「ちゃんと着て来てよ?」
「…ではこれで失礼を」
「今度はゆっくりしてけよ」
親方に言われ、困ったように笑い小さく頭を下げてその場を後にした
「本当によいのだろうか…」
鴉天狗の羽根はしなやかで美しく、軽くて丈夫なため抜けたものは糸にして織って、鴉天狗はいつ争いに巻き込まれても生き延びれるように着る物
「親方や奥方はお前を甘やかしたいんだよ。跡取りもでかくなったからやり場のない甘やかしがお前に来てるな」
「…主様にも甘やかされ、この村でも甘やかされ…。まぁその分銀呼(ぎんこ)殿が指南して下さったから堕落せずに済んでいるが…」
「…そうか」
鈍は何か言おうとしたが、紅緋の回りに風が集まり彼女の体が浮いたのでそれだけに留めた
「着物の礼は後日必ず」
「…別にいいと思うが。十六の祝いと思っとけば」
「私の気が済まないんだ。…では失敬する」
困ったように言いながら彼女は空へと消えていった
「…銀呼が極度の人嫌いで紅緋が来た時虐め捲ったのを知ってるくせに指南してくれたって…」
昔から変わらぬお人好しに、鈍は心配せずにはいられなかった
それは鴉天狗達の居城
長の命で妖の国を飛び回り、時には余りにも殺生が過ぎる妖を止めたり大工仕事をしたりと様々な仕事をこなす
鴉天狗は職人が多く、[手に職を]が鴉天狗達の座右の銘である
「親方、奥方。紅緋が来ましたよ」
「おおっ!よく来たな紅緋!」
「あらまぁ。来るとわかっていたら南蛮菓子でも用意したのに…」
樹の最上部にたどり着いた紅緋は膝を折り頭を下げる
先にいる親方と呼ばれた恰幅のいい大きな鴉天狗こそこの村の長
その隣で穏やかに笑う女性は人の形をとっている妻である
「長殿、奥方様、お久しゅうございます」
「そう畏まるな!顔を上げて別嬪の顔を拝ませてくれ!」
「楽にして頂戴。本当に綺麗になったわねぇ…。そうだ、あれを持って来てくれる?」
豪快に笑い飛ばす親方に、紅緋は顔を上げて苦笑する
「長居はいたしませぬ。我が主の命により書状を渡しに参じたまで。渡したら直ぐに帰るよう言われております故」
紅緋は恭しく親方に書状を渡す
受け取った親方は不満そうに書状を摘まんで無意味に揺らす
「なんだつまらん」
「過保護が過ぎるのですよ。我が主は」
「本当に。村には恩人がいるんだから長期滞在くらい許してくれてもいいと思わない?」
「…それ、どっちに言ってます?」
鈍のツッコミを無視して奥方が至極残念そうに息を吐くと、女の鴉天狗達が立派な桐の箱を持って来た
軽く礼を言って下がらせると奥方は蓋を開ける
そこには黒の着物があった
無地だが光沢があり美しい
「抜けた羽根を織って作った物だけど、今度来る時着て来て頂戴」
「そんな、私には勿体無い…」
「いやいや、お前ならぴったりだと思うが」
「そうよ。ちゃんと普段使い出来るように丈も短めにしたんだから!」
しかし、と言い淀む紅緋に鈍が言う
「…貰ってくれ。後でやいやい言われるのは俺だ」
そう言われ、紅緋は申し訳なさそうに頭を下げる
「…では慎んで。有り難く頂きます」
「ちゃんと着て来てよ?」
「…ではこれで失礼を」
「今度はゆっくりしてけよ」
親方に言われ、困ったように笑い小さく頭を下げてその場を後にした
「本当によいのだろうか…」
鴉天狗の羽根はしなやかで美しく、軽くて丈夫なため抜けたものは糸にして織って、鴉天狗はいつ争いに巻き込まれても生き延びれるように着る物
「親方や奥方はお前を甘やかしたいんだよ。跡取りもでかくなったからやり場のない甘やかしがお前に来てるな」
「…主様にも甘やかされ、この村でも甘やかされ…。まぁその分銀呼(ぎんこ)殿が指南して下さったから堕落せずに済んでいるが…」
「…そうか」
鈍は何か言おうとしたが、紅緋の回りに風が集まり彼女の体が浮いたのでそれだけに留めた
「着物の礼は後日必ず」
「…別にいいと思うが。十六の祝いと思っとけば」
「私の気が済まないんだ。…では失敬する」
困ったように言いながら彼女は空へと消えていった
「…銀呼が極度の人嫌いで紅緋が来た時虐め捲ったのを知ってるくせに指南してくれたって…」
昔から変わらぬお人好しに、鈍は心配せずにはいられなかった