妖乱譚(ようらんたん)~幻魔神戦記~
蛇の岩山





何十といる蛇の一族が集まる大きな岩山







紅緋は岩山を少し登った所にある洞窟に入り、奥へと進む






やがて広い場所に出ると、そこにこの洞窟の主がいた











「…只今帰りました」









白い髪に妖艶な顔立ち、着物は着ておらず細くも柔らかな体が露になる女


その下半身は蛇、その白い腕や体にも鱗が見える









「紅緋!やっと帰ってきたの!」










嬉々として腕を広げる妖に苦笑しながらも近寄り、抱き締める


女も腕だけでなく蛇の部分も絡めて歓迎している








「主様、まだ一刻も経っておりません」

「刹那だろうが石火だろうが寂しいものは寂しいの!あと主様じゃなくて母上とお呼びと言ってるでしょ?」








紅緋は困ったように言う







「只でさえ人間の私を引き取って下さった時に信用が無くなったのに、そんな不躾な事は出来ません」

「卑屈にならないでよ。そんな人間の子供が、妖でも難しい高度な妖術を次々覚えて馴染んじゃったんだから」

「立場というものがございます」








この蛇の女の一族は蛇の妖全ての一族の跡目を産む役割を持ち、女王の一族と呼ばれている程蛇の妖の中では位が高い





そんな長と人間の娘の頑なな二人はどちらかが折れるまで話題を変えない










「…じゃあせめて白姫(しらひめ)って呼んでよ。様は抜きで」








今回折れたのは主、白姫







口を尖らせる主に苦笑しながらも承諾した








「畏まりました。白姫」

「ん。…あら、鴉天狗の奥さんまたなんかくれたの?」








手に持っている桐の箱を開けるとうわ、と声を上げる









「鴉天狗の羽根で織ったやつじゃない。また立派なやつを…」

「はい。鈍殿は十六の祝いと思えと言われたのですが、それでもお礼の品は用意した方がいいと…」

「うん。宝物庫の玉使っていいからなんか装飾品でも作ってあげたら?泣いて喜ぶよ」

「私が作るのですか?」

「この国で玉や鉱石で何かを作ると言えば鉱山の妖かあんたしかいないわよ」








紅緋が人間の国で暮らしていた頃、父親が玉や鉱石を買い付け加工し、武家や貴族に売る仕事をしていた




時たまそれに付いていったり仕事を手伝ううちにある程度の事は出来るようになり、それが今活かされている







「鉱山の長が息子の嫁にくれって言うから即座に断ったわよ(笑)」

「だからですか。鉱山へ手伝いに行ったらご子息がいきなり泣かれたのは(汗)」

「狸の一族から猫又の一族から、あんたを嫁にしたいって恋文沢山来てるわよ?」








人間でありながら紅緋は才能や容姿、その謙虚で柔和な性格を気に入られ寄ってくる妖は後を絶たない










「そんな…」

「でも、まだまだ嫁には行かせないからね。寂しくて死んじゃうし」








白姫は七年前の事を振り返る
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