ブンちゃんとぱらぱら小道
てくてくと歩き始めてすぐに、アメさんが道を逸れた。ブンちゃんは慌てもせずに声をかける。
「アメさん、今日はどちらに?」
その声に首だけ振り返ったアメさんが「なぁー」と答えると、ブンちゃんはにっこりして頷いた。
「わかりました。気を付けてくださいね。夕方には私も帰っていますから」
再び「んなー」と返事をして、アメさんは、ててて…、と歩いていった。
一人になってもブンちゃんのお散歩は続く。
てくてくと両手を振って歩いていると、前方からつんつん頭のスーツ姿の男のひとが近づいてきた。
「スドーさん、おはようございます」
ブンちゃんがにこやかに挨拶をする。スドーさんもブンちゃんに気付いてにっこりした。
「やあブンちゃん、おはよう。今日もお散歩かい?」
肩をぎこちなくふるふるさせながらスドーさんが聞いた。
「はい、私はお散歩が大好きですから。スドーさんはお仕事ですか?」
「そりゃあそうだよ。僕はサラリーマン。サラリーのために身を尽くすのが仕事なのさ」
「スドーさんはサラリーが好きなのですか?」
口を開くたびに広くなったり狭くなったりするスドーさんの不思議なおでこを見つめながらブンちゃんが聞く。
「好きとかじゃなくて必要なのさ。僕には家族だっているからね」
「好きではないことをしているのですか?」
その問いには答えずに、スドーさんは肩をぎこちなくふるふるさせて少し笑った。
「守りたいひとができたら、ブンちゃんにもきっとわかるよ。それじゃあまたね」
ブンちゃんの脇を通り過ぎてスドーさんは歩いていった。