ブンちゃんとぱらぱら小道
果物屋さんのお兄さんはもう一度こてん、と首を傾げて、
「好きなことをして、大事なひとを守れたらサイコーだよね」
と言った。
「嫌なことがあっても、好きなことだからがんばれたりするよね。嫌なことがあっても、好きなひとのためだったらがんばれたりするよね」
エプロンのポッケから手を出して、果物屋さんのお兄さんは真っ赤なリンゴをひとつ手に取った。
「そりゃあいろんなことがあるさ、生きてるんだもの。好きなことだけしていたら前に進めなくなるときもあるだろうね。だからさブンちゃん、好きなことをしているからって絶対幸せなわけでもないし、好きでないことをしているからって絶対不幸せなわけでもないんだよ」
お兄さんの言うことはなんだか難しくって、ブンちゃんは頭がくらくらしてきた。
「必ずしもサラリーで大事な人を守れるわけでもないしね。ひとそれぞれさ」
ぴかぴかのリンゴを真っ赤なエプロンで更にぴかぴかに磨いて、お兄さんはそれをブンちゃんに差し出した。
「要は幸せになればそれでいいんだよ。はい、おまけ」
真っ赤なリンゴを両手で受け取り、ブンちゃんはくらくらの頭をなんとか動かしてお礼を言った。