ダイス
一瞬の気の迷いで、人生は瞬く間に変貌を遂げる。




「あれから新井から連絡あったか?」


深水が訊くと雪音は無言で首を振った。


声も出さなければ視線も合わせない。


これでは嘘かどうかも分からない。


新井太一。


彼は雪音の元恋人だ。


そして深水が取り逃がした殺人犯でもある。


いや、取り逃がしたというのには語弊があるが、それが原因でエリートから脱線したと思っている人間が多数だ。


多数というより、真実を知っているのは自分と新井、そして雪音の三人だけだ。


深水は背広を脱ぎながら、料理をする雪音を見た。


彼女が何を思っているのか分かったことなどただの一度もない。



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