ダイス
大勢の人が行き交う歩道で、明良はぴたりと足を止めた。
それを気にせず進む人、迷惑そうに軽く睨む人。
だが紗江子も明良につられて足を止めた。
まるでそこだけが時が止まり、色を失ったように思えた。
ここに存在しているのは二人だけ。
ぽかんと、世界に穴が空いたかのような感覚。
明良は紗江子の言葉には答えずに、そっと顔を近付けてきた。
そして、柔らかい唇を、紗江子の唇にそっと重ねた。
飴のような甘い匂いと共に、微かな血の臭いの感じる口付けだった。
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