ダイス
「じゃあ、質問を変えるわ」
紗江子は明良から顔を離した。
この顔がずっと近くにあったら目眩がしそうだ。
「何故、模倣したのだと思う?」
涼しくなった夜風が頬を撫でる。
近くの繁みから虫の鳴き声が聞こえ、秋の到来を知らせる。
空の低い位置に浮き、赤みを帯びた大きな半月は今夜が不気味な夜だと教えているようだ。
「模倣する理由なんて、憧れ以外有り得ない」
明良のきっぱりと言い切った声は、虫の音を掻き消した。
ざあ、と突如強い風が吹き荒れ、紗江子の長い髪を揺らした。
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