ダイス



「悪いわね。毎回情報を横流しさせて」


紗江子が言うと、長谷部は柔和な笑みを浮かべて首を横に振った。


「自分、浅川さんみたいに前向きに仕事をするべきだって、思ったんですよ」


長谷部の言いたいことの意味が分からずに、紗江子は首を傾げた。


人気の少ない場所を選んでいる為、他の捜査員が通りかかることはない。


「自分は、何となく此処に引き上げられて、何となく刑事やってました。そりゃ、殺人が悪いことだと分かってます。でも、犯人逮捕に躍起になることもなかった。そんなときに、浅川さんが同じ班に来て、最初は女性のそこそこエリートなんて、て正直思ってました」


長谷部はそこで一旦言葉を切り、缶コーヒーを一口飲んだ。


「でも、事件と真摯に向き合って、犯罪を憎んで、必ず犯人を挙げる、ていう姿を見て心を打たれました。そんな言い方すると何か格好よく聞こえますが、要は自分の駄目さを教えてくれたんですよ」


長谷部は言い終わるとまた柔和な笑みを浮かべた。
< 207 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop