ダイス



「だから、自分なんかで役に立てるなら何でもしますよ」


長谷部の言葉に胸の奥が痛くなった。


殺人犯を野放しにしている現状。


そんな人間に、恋愛感情を抱いている自分。


そしてそれを告げられない弱さ。


どれもが情けなくて、そんなふうに称えて貰える人間、況してや刑事などではないというのに。


「……ありがと」


紗江子は長谷部の顔を見ずに礼を言った。


長谷部にはずっと疎まれているのではないかと思っていた。


女で年下で、なのに階級が上というだけで敬語を使わなくてはならない。


それをよく思わない男が沢山いるのは知っている。


それでも長谷部はそんなふうには思っていなかった。


むしろ、言葉は違えど尊敬する、と言ってくれているのだ。


こんな、裏切った真似をしているような自分を。



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