ダイス




「俺が知っている名前は、新井太一ではなく、古坂慎二だけどね」


明良はゆっくりと顔を上げて言った。


「それが偽名であることも、新井太一が本名であるこど知っているけど。あ、でも、本名っていうのかな?」


紗江子は明良の言葉にえ、と聞き返した。


「彼を追ってるなら、彼に戸籍がないことも知ってるんだよね?」


明良の言葉に紗江子は頷いた。


その話は深水から聞いていたし、今回改めて調べもした。


でもやはり、データと呼べるものに新井太一という名前はなかったのだ。


「証明するものがないなら、本名って言えるのかな、てこと」


明良の言い分に、紗江子は成る程、と思うと同時に、それはどんな気分なのだろうと思った。


この世界に、自分が自分だと証明するのものが何もないというのは、一体どんな気分なのだろう。




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