ダイス
「だから、誕生日の食事の仕度をするあいつの目を盗んで家から飛び出した。何時でも出来たのに、何故かしなかった。そしてその時は突然、出ようと思った。溜まり溜まったんだと思う。そしたら、直ぐに事故に遇った。病院に来たあいつが言ったんだ。戸籍がないから、普通になんて生きていけない。だから、ずっと家に閉じ籠っていればいいって」
全てが理解出来ない話だった。
理解する必要はない。
そう割り切ってしまわないと、頭がパンクしてしまいそうだ。
「今度は病院から抜け出した。そして、ふらふらしながら生きた。外の情報は与えられていたから、金を稼ぐ必要があるのも、普通のことは知ってた。あいつに見付からないようにだけ生きてた。そんなときに、知り合ったんだ」
明良は一旦言葉を切った。
ここまで素直に話す理由は何だ。
今までは全くといっていいほどに語ることを拒否しているように見えたのに。
だが、余計なことで口を挟んで話を止めるわけにはいかない。
紗江子は黙ったまま、続く言葉を待った。
.