ダイス



「そいつは十九歳の大学生で、当たり前のように生活してた。親の金で免許を取って、車を買って。当たり前にそこにいた。バイト先の奴の知り合いの知り合いだった。車いいね、て言うと、お前も免許取れば? て返してきた。無理だ、と答えると、何で? て返ってきた。だから、言ったんだ。戸籍がない、と。すると、そいつは笑った。嘘だろ、と。それだけのことで無性に腹が立った。何か、面と向かって、お前はこの世界に存在しないんだと言われた気がした。だから、賽子を転がした」


最後の意味が分からない。


「賽子は、俺が唯一与えられた玩具だった。それを転がして、いつも決めさせられていた。夕飯は何にするか、何のテレビを観るか。だから、賽子が出した目は絶対だった。だから、決めた。賽子を作って、真っ赤な一が出たら、あいつを殺そうって。殺したら、自分がいた証明になるって」


精神が狂ったのは、何が原因だったのか。


物事を決めることすら、自分の判断ではない。


まるで神の采配。


明良はそう言っているようにも思えた。


「そしたら、見事に一が出た。だから、そいつを殺した」


明良は紗江子を真っ直ぐに見ながら言った。





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