ダイス



「安らかに眠ってね」


紗江子は目を開けて言った。


「お前の口からそんな言葉が出るなんてな」


隣に立つ誠が驚いたような声を出す。


「ただ、そう思えたのよ」


紗江子は真由の墓石を眺めながら明良のことを思い出した。


あれから一度接見を申し出たが断られた。


何の為に会おうと思ったりしたのか。


自分の気持ちを確かめたかったからか、それとも明良の気持ちを確かめたかったからか、それは分からない。


そして、自分の気持ちも分からない。


彼を愛しく思う気持ちが僅かにでもあったのは確かだ。


でもそれは淡いもので、形を成さずに消えていった。


脆弱な感情。




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