ダイス
「……あたしは、薄情なんかじゃないわ。仕方の無いことなのよ。誰が死んでも世界は廻るの。そんなことは、この仕事を始めて嫌という程知ったわ。そして、あの時に死んだのがあたしだったとしても、世界は廻るの、何事もなく、ね」
何度自分に言い聞かせた言葉か分からない。
だから自分が生きていくのも仕方の無いことなのだ。
誰を喪っても、世界の動きは止まらない。
それでも許せないと思った。
それでも裁かれなければならないと思った。
再び強い風が吹き抜けると、また葉が音を鳴らす。
それが紗江子の耳に届き、それを合図に足を前に出した。
これ以上、此処にいてはいけない。
過去に戻る為に来たのではない。
紗江子は首筋に流れる汗をハンカチで拭いながら狭い道を歩いていった。
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