ダイス



「ご飯は?」


素っ気ない口調には似つかわしくない愛らしい声で彼女が訊いてきた。


彼女は深水の妻、雪音。


年は二十二歳と、深水とは十六も離れている。


「食べるよ」


深水が答えると、雪音は分かった、と言って立ち上がった。


可愛い横顔はまだ十代にも見える。


結婚して三年近くが経とうとしているが、彼女の笑った顔を見たことはない。


恨んでいるのか。


静かにキッチンに立つ雪音の姿を見ながら背広を脱いだ。


まさか、自分が結婚するとは思わなかった。


結婚というものに興味がなかったわけではない。


いずれはするだろうと認識していたくらいだ。


その相手がこんな娘だとは思わなかったが。


「何か……あったの?」


雪音はちらりと顔を上げて訊いてきた。


会話をする必要があるとは思えないが、一応答える。


それが毎朝毎晩と続く日常。




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