ダイス
色をなくしていく世界はあまりに滑稽なんだ。
かつかつ、というヒールの音と少し遅れてこつこつ、という靴音が聞こえてくる。
最初、自分の靴音の残響かとも思ったが違う。
紗江子はわざと歩くペースを落とした。
これで、微かにずれる靴音も遅くなったらつけられているということだ。
そう考えた途端、背筋が寒くなった。
残暑の夜はまだ蒸し暑いというのに、ぞわりと鳥肌が立つ。
過去の記憶が蘇る。
幾度となく、こうして後をつけられた。
その足音は家の前までついてくるのだ。
紗江子は歩みを遅めながら耳を澄ませた。
だが足音は遅くなることはなく一定のペースを保っている。
なんだ、勘違い。
紗江子は安堵の息を吐いた。
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