ダイス
背中に一筋の汗が流れる。
つけられていたのか。
紗江子は歩くペースを速めるか、それとも遅めるか。
一瞬にして頭の中で色々と考えた。
さして体格のよくない男であれば何とかなる。
でも、そうでなければ。
紗江子が乱れそうになる呼吸を抑えながら、振り向く覚悟を決めたその時、大きな手が紗江子の肩を軽く叩いた。
それだけで一気に血の気が引いていく。
悲鳴が出そうになった時に降りかかったのは、聞き覚えのある声だった。
「この間の人だよね?」
紗江子はその声にぱ、と振り返った。
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