ダイス



「動き、俊敏だね」


そこにいたのは、昨夜ぶつかった男だった。


「貴方……」


紗江子が声を出すと、男はに、と笑った。


「後ろから、その姿勢のいい歩き方は君だろうな、と思ってさ」


年齢は自分と同じ位か、もう少し上か。


いや、上だろう。


目元には微かにだ皺があるが、それは笑い皺だろうか。


そう思える程に彼には笑顔がよく似合う。


それだけの理由で声を?


そう訊こうと思ったが、何だか自意識過剰な気がして止めた。



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