ダイス



「家、この辺りなの?」


男は笑顔を絶やさずに訊いてきた。


「ええ」


紗江子が答えると、そう、と言って更に笑った。


だがそこで一度言葉を詰まらせた。


何だろう、と思いながら、目線のかなり上にある彼の顔を見る。


痩せ過ぎで頬が痩けているのか、それとも元々そういった骨格なのか。


「ええと……、名前、訊いてもいいかな? 君、て呼ぶのもあれだし」


男は少し照れたように言ってきた。


これくらいの年の男なら名前なんてさらりと訊きそうなものだが、彼は言いづらそうにしている。



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