ダイス



「だったら、あんたも警部補になればいいでしょう?」


紗江子は少しだけむ、とした表情を作った。


それでも表情筋が乏しいのか、周りからは無表情に見られることが多い。


「高卒で警部補になるのがどれだけ大変か知ってんだろ」


笹木は右手を握ったり開いたりしながらぼやくように言った。


これは煙草を欲している仕草だ。


所轄時代、彼とは何度も組まされていたので、彼の癖や言動は嫌という程染み付いている。


「あ、聡さん」


紗江子が言葉を返そうとした瞬間、笹木は声色を明るいものへと変えた。


その視線の先にはTシャツにジーンズ、そして黒のセルフレームの眼鏡を掛けた、とても刑事には見えない男がいる。


辻木聡。彼は笹木の上司だ。


笹木は紗江子には何も言わずにその場から聡の方へと向かった。


仕事を円滑に進める為には本性なんて隠す。


入庁してきた時に笹木が言っていた言葉だ。



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