ダイス
人為的なのに止めることの出来ない無能さ。
紗江子は闇に息を吐いた。
このところまとわりつく感覚が身体から、神経から離れない。
思い出す要因なんて何もないのに。
紗江子はもう一度息を吐いた。
額にじんわりと汗が滲むのは暑さのせいか。
「あ、また会ったね」
その声に紗江子は顔を上げた。
有名なカフェから飲み物を手にして出てきたのは明良だ。
ひょろりとした身体と甘そうな飲み物は似合わない。
「ああ、どうも」
紗江子が言うと、明良は笑ってみせた。
「帰る時間、ばらばらだね」
明良は腕時計を見てから言った。
彼と会ったのは三度目。
言われてみれば時間は毎回違うかもしれない。
「そうね。特に決まってはないかな」
紗江子も細い腕時計に視線を落としてから言った。
「何の仕事してるの?」
明良はストロー軽くくわえながら訊いてきた。
ホイップクリームが乗ったココア色の飲物の名前は知らない。
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