ダイス




「本当に割勘でよかったの?」


明良が不安そうに紗江子の顔を覗き込んできた。


紗江子はそれにええ、と答える。


「誘ったのに割勘とか、ちょっとカッコ悪いかも……」


「そんなことない。割勘のほうがこっちも気が楽なの」


紗江子の言葉に明良は安堵したような表情をした。


二人で食事をしたのはチェーン店の居酒屋だ。


さして量を食べたわけではなく明良が誘ったのだから全額支払うと言ったのだが、紗江子はそれを許さなかった。


よく知りもしない男に奢ってもらう謂れはないということではないし、フリーターだと言っていた彼の財布を心配してでもない。


対等に向かい合いたい。


そんな思いが芽生えたのだ。


奢ったり奢られたりというのは、どちらかが有利に立つ気がしてしまうのだ。


別に明良に有利に立たれるのが嫌ということではない。


ただ対等な位置にいたいと思った。



.
< 83 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop