冷たいアナタの愛し方
ジェラールの性格を量り兼ねているオリビアは、肩に乗っている無骨な手を注視しながらも何も言わずに特別席に通じるカーテンの前で立ちどまった。


「一体ウェルシュに何の話をするつもり?」


「…父上たちと俺の暗殺について。そして王位を放棄しろと言う」


「あの酒樽が納得するわけないでしょ?」


「お前は黙ってろ」


「…あなた立派な亭主関白になれるわ。そして愛想尽かされて捨てられるタイプね」


「………」


減らず口を叩いて肩で笑っているオリビアを睨みつつ、ジェラールが何度かドアをノックすると、中から野太い声が微かに聞こえた。


「おお、やっと女が来たか。早く入れ」


「…きもちわる…」


つい本音を漏らしたオリビアは、ウェルシュがここに呼び寄せた女に同情しながらも、ジェラールに肩を抱かれたまま中へと入る。

特別席と言えどわりとこじんまりとした部屋だったが、中央で大きな椅子に大きな身体を押し込めて座っているウェルシュの後ろ姿を見ているだけで吐き気を催すオリビアは、なるべくウェルシュを見まいと部屋のあちこちに視線を走らせる。


「待ちかねたぞ。さあ傍に………ん!?な、なんだお前たち!そ、それに…それに…」


視線がべったりまとわりついてくるのを感じたオリビアが呆れ顔で腕組みをしているルーサーの背中に隠れようとすると、ジェラールにぐっと肩を掴まれてその場から動けなくなる。

抗議しようとジェラールを見上げたが…とても冷静で真摯な瞳をしていたので、なんとか堪えて床に目を落とした。


「決着をつけようか」


「兄に向ってその口の利き方はなんだ。俺は王となる男…」


「お前に王位は継がせない。逃げ出す土地もくれてやるつもりもない。…ウェルシュ、王位を捨てろ」


凄みの利いた声と口調にウェルシュがよろよろと椅子から立ち上がる。

冷や汗をかいて恐れを抱きながら末弟を見つめたウェルシュは、腰に下げていた剣に手をかけて瞳に殺意を込めた。
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