冷たいアナタの愛し方
ジェラールの離宮に着くとすぐにバスタブにお湯を張ってくれて、主のジェラールよりも先に身体を洗って巨人の体液がついた髪も綺麗に洗った。

身体があたたまると心もあたたまって、両親と過ごした日々が走馬灯のように脳裏を流れてゆく。

ついに我慢できなくなったオリビアはシャワーの水量を最大にして声を上げて泣いた。

ルーサーに聞かれまいとそうしたのだが――リビングで今後の対策を練っていたルーサーにも、オリビアの泣き声は聞こえていた。


「ウェルシュは殺したと言っていたけど…確証はない。あいつは命令しただけなんだ…」


ローレンに調査団を送る必要がある。

そしてウェルシュは覇王剣を持つ者がローレンに潜伏していると聞いて出兵したが、結局オリビアを見つけ出すことができず空振りに終わっている。

ハルヴァニアの若き王レイドは近日中にこちらへやって来るのでどう言い訳をしようかと考えていた矢先の出来事に、ルーサーは額を抑えて力なくソファに座った。


「おい、街は大事になっているぞ」


「ああジェラール…よかった、君も抜け出せたんだね」


息せき切ってやって来たのは、大騒ぎになったコロシアムの後始末をしていたジェラールだ。

ウェルシュは腰が抜けて動けなくなって、衛兵に抱えられて今頃城の政務室に居るはず。


不機嫌顔のジェラールが闘技場内に落ちたオリビアの文句を言おうとした時…バスルームからオリビアが泣く声が聞こえて唇が止まる。

自然に脚がバスルームに向かったが、扉の前にはシルバーがどっしり座っていてどきそうにない。


「お前もよく頑張ったな。主が居ないのにリヴィを庇って…偉いぞ」


「………ゎん」


…この馬鹿が。


そう文句を言って上目遣いで小さく鳴いたシルバーの言葉がわかるはずもなく、ジェラールはルーサーの隣に座って義兄の肩を抱く。


「…つらい過去を思い出したか?」


「別につらくはないよ、事実なんだしね。母は…愛されて死んだからいいんだ。それも僕を産んだことが原因で死んだんだ。誰も悪くない」


外は雨が降り始めた。

外からも内からも水の音が響き、2人はオリビアが落ち着くまでそっとしておいてることにして2階に上がった。
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