冷たいアナタの愛し方
オリビアがバスルームから出てきたのは約1時間後のこと。

目は赤く腫れて明らかに泣いていたことがわかったが、ジェラールもルーサーも見て見ぬふりをしてソファに深く座り直す。


「ごめんなさい、身体があたたまったらうとうとしちゃって…」


「いや、いいんだよ。さ、これを飲んで」


ルーサーが用意してくれたホットミルクを飲むとさらに心がほっこりしたオリビアは、目頭が熱くなって肩にかけていたタオルで顔を拭うふりをして涙を拭く。

色々なことが一気に起こりすぎてまだ頭が混乱していたが…やるべきことをやらなければ。


「勝手に落ちて…ごめんなさい」


「…あれはウェルシュの責任だ。お前のせいじゃない」


ルーサーよりも先に口を開いたジェラールはぶっきらぼうにそう答えつつ、銀色の髪をかき上げる。

いつもは女性の話をまともに聞くような男ではないのだが、落ち込んでいるオリビアの話は聞いてやりたくて、ため息をついた。


「ウェルシュは……どうしてるの…?」


「お前を落としたショックと巨人が人を食っているのを目の当たりにして政務室に引きこもっているらしい。それにお前…剣術を習ったことがあるのか?巨人なんか手練れの戦士でも倒せないのに」


――剣術なら幼い頃から兄たちに教えてもらった。

筋がいいと言われて誉められて…そんな優しい兄たちも、もう…


「…兄たちに教えてもらったの。いつかは冒険の旅に出て自由気ままに暮らすのもいいな、って思ってたわ。私…養女だったから…」


「そうだね、君ならできるよ。とりあえず今夜はゆっくりした方がいい。それに街の方はヴァルキリー騒ぎで大変だよ。あの女の子は何者なのかって問い合わせが殺到してるみたいなんだ」


オリビアが巨人を倒した後にジェラールやルーサーが助けに行ったことも手伝って、あの女の子はどちらかのフィアンセなのではと噂されていた。

しかも銀色の狼にまたがって剣を自在に使いこなすあの勇姿――


「私は何もしてないの。シルバーのおかげ」


「きゅぅん……」


シルバーがオリビアの膝に顔を擦りつける。

労わってくれる優しさにまたぼろっと涙が零れたオリビアは、慌ててタオルで顔を拭ってシルバーの首に抱き着いた。
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