冷たいアナタの愛し方
城の最上階に近いフロアにある政務室には、白い布をかけられたウェルシュの遺体が寝かされていた。

人の亡骸をまともに見たことのないオリビアはすぐ目を背けてシルバーに抱き着いて顔を伏せる。

ジェラールとルーサーはそれを横目で見ながら、官僚が忙しなく行き交う様を冷めた目で眺めた。


「ひどい…誰がこんなことを…」


「…俺の父と母は就寝中に刺殺されて死んだ。…それもこいつの仕業だ。殺されたのは自業自得だな」


「……私の両親もウェルシュに殺されたわ。自業自得…そうなのかしら。誰かを殺したから殺されるなんて…それが当たり前なの?」


2人共、その質問には答えない。

王族は常に暗殺の危険に身を晒しているので、幼い頃から身体を毒に慣らしたり剣術を習ったりする。

自己を防衛するために努力をしてきたが、ウェルシュは長男という立場から王位を継げるものだと勘違いしていたので剣術の勉強はほとんどしていなかった。


「正面から刺されてる。顔見知りだったからなのかな」


「恐らくそうだろう。こいつは用心深いから、馴染の者だったはずだ」


実況見分をしている2人をよそに、オリビアは血で真っ赤に染まっている絨毯から目が離せなくなっていた。

こんな恐ろしいことをする人がいるなんて。

そして…ルーサーやジェラールは常にこの危険に身を晒しているなんて。


ローレンでは、考えられないことだ。


「気持ちのやり場がないわ…。それにシルバーは魔物だから血の匂いを嗅がせたくないし、部屋の外に居てもいい?」


「いいよ、僕たちももう用はないから。ジェラール…国葬の準備をした方がいいのかな。どう思う?」


ルーサーに問われて少し考え込んだジェラールは、首を振ってウェルシュの遺体を一瞥すると、オリビアたちと共に部屋を出る。

ウェルシュ亡き後、ガレリアに残っている王子は自分とルーサーのみ。


そして王位を継ぐのは――


「国葬はしなくていい。それと、父の意志を次いで俺が跡を継ぐ。それでいいな?」


「もちろん。じゃあ急いで準備をはじめないと」


じゃれつくシルバーの耳をかいてやっていたオリビアがジェラールを見上げると、真っ青な瞳を細めて笑ったジェラールはオリビアにある要求をした。


「俺が王になったら陛下と呼べ。これは命令だからな」


にやり。
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