冷たいアナタの愛し方
だんまりしているジェラールは口を開けば悪口ばかり。

なので必然的にルーサーとばかり話してしまうのだが、飲み物が足りなくなってルーサーが調達のために席を外すと、オリビアはジェラールをじっと見つめた。

かなり顔は整っているし金の髪がとても綺麗だが…唇は不機嫌そうに真一文字に結ばれているし、空を見上げたまま目を合わせようとしない。

2人が名家の出なために名を名乗れないばかりか色々聞いても曖昧に返されるので、腹を出して撫でろと要求しているシルバーを膝に乗せて両の前脚を持つと、人形遊びのようにジェラールに話しかけた。


「垂れ目さんは不機嫌さん。そんなんじゃ女の子が逃げちゃうよ」


「…女なんか好きじゃない。…どうせ好きになった女とも結婚できないだろうし」


「どうして?好きな人と結婚しなきゃ意味がないでしょ?」


「言っただろ、俺は名家の出なんだ。そんじょそこらのお坊ちゃんとはわけが違う。だから家柄の良い女と政略結婚。未来は決まってる」


つまらなそうにそう言って瞳を伏せたジェラールは、この若さですでに人生を諦めているように見えた。

誕生と共に死んでしまった王女の代わりに養女になったオリビアは、愛してくれている両親のためなら勧められた縁談は喜んで受けようと思っていたが、人それぞれ生き方や価値観は違う。

王女だが養女なので、今まである程度のことは好き放題させてもらっている。

今日は誕生日だがこうして抜け出していられるし、街の中ならば自由に歩くことも許されている。

ただ…胸から生える剣だけは絶対人目に触れてはならない、と言われているけれど。


「そっか、大変だね。あなたのお嫁さんなんかになったら苦労しそう。毎日がみがみ文句言われて冷たくされて鬱になっちゃう」


「好きな女にならそんな態度は取らない。お前こそどうなんだ、お嬢様だったら縁談が山ほど来てるだろ」


「知らない。言ったでしょ、私は養女だから政略結婚なんてないと思うしお兄様たちが居るから後継ぎ問題は私には関係ないの。ルーサーはお兄ちゃんなんでしょ?でもジェラールが跡を継ぐの?」


純粋に疑問に思っていることを口に乗せているオリビアが探りを入れてきているわけではないとわかるので、ジェラールはマントについたパン屑を払いながら小さな声で呟いた。


「あいつには資格がない。俺が継ぐしかないんだ。…ふん、余計なこと話した。すぐ忘れろ」


ルーサーが飲み物を手に戻って来ると、普段女との会話を嫌うジェラールがぽつぽつ話している姿に頬を緩めて、ついでに歩も緩めた。
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