冷たいアナタの愛し方
奴隷の朝はとても早い。

ぐっすり眠ってしまっていたオリビアは部屋のドアを叩く音で目覚めて目を擦りながら部屋を出た。


「おはよう。今日は馬房の掃除を教えるわ。ついて来て」


他の奴隷の目がある時はレティは敬語を使わない。

新米に仕事を叩き込むリーダーとしてオリビアを誘導して階段を上がり、ガレリア城の庭に出て人目がなくなると、ようやく緊張を解いて笑いかけてきた。


「よく眠れましたか?」


「思った以上に眠れたと思うわ。今日は馬房の掃除なの?私動物は大好きだから得意かも」


「そういえばあのオリビア様から離れなかった大きな犬はどうしたんですか?」


「…ローレンに置いて来たの。お父様たちと、以前知り合いになった人を捜して待つようにと言ってきたから…待ってくれていると思うわ」


「あの犬は目立ちますからね。オリビア様、ここが馬房です」


戦の時に用いられる馬たちはとても大きくて、王族専用であることから毛並みも美しく、愛らしい顔をしていた。

近寄ると鼻面を寄せて触ってくれと合図してきたので鼻を撫でてやると尻尾を振って喜ぶ。

藁を用意してやったり馬糞を片付けたりしていると、レティに呆れられた。


「抵抗はないんですか?オリビア様はお姫様なのに…」


「お姫様とはいえ私は養女だからいつまでもお姫様然としていられないの。ほらもうちょっと避けて。そうそう、いい子ね」


――レティは馬がオリビアの言うことを素直に聞いてスペースを空けている光景に唖然としていた。

彼らはプライドが高くて気に入らない人間は馬房にすら入れないのだが…オリビアはすんなりと受け入れられて、しかも肩に顔を擦りつけたり構ってほしくて鼻面を寄せたりしているのだ。

本当に不思議なお姫様だ、と思っていた。


「早いね。今日は馬房掃除?」


「あ…おはようございます。ルーサー様」


誰に見られているかもわからないので敬語を使って頭を下げたオリビアの前に現れたのは、すでにネクタイを締めた礼装姿のルーサーだ。

レティは緊張して顔を上げることすらできなかったが、オリビアはぴかぴかにした馬房を自慢げに見せて胸を張っていた。


「朝食が終わったらリヴィにまた離宮の掃除を手伝ってもらいたいんだけど。いいかな」


「は、はい」


声をかけられたレティは声を上ずらせて顔を上げると、柔和な笑みを浮かべているルーサーにぽっとなってもじもじしてしまった。
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