「同じ空の下で…」
思えば、海外企画部の人達は皆、優しかった。
新人で目に見えてトロくて仕事のミスも多い私を当時、直属の上司だった本田部長代理が
「俺が盾になるから、安心して仕事しなさい」
と、ゆっくりでいいから確実な仕事をしなさいと指導してくれた。
その本田さんが今じゃ、会社の動向の指揮を司る、営業部の部長代理だ。
奥さんがいつもセレクトしているというセンスある身だしなみも、社内では有名だった。
こんな素敵で、社員からの信頼も高い上司に恵まれた私自身も、鼻が高い♪
車中、本田さんは慣れた様子で英語で電話をしていた。
私は窓の外を眺めながら、オフィス街を急ぐ人々を観察していた。
「今から誰に会うの?」
電話を終えた本田さんが、優しい声で話しかけてくる。
「えっと、あの…専務取締役の…」
いきなり質問され、慌てて名刺を探し出す。
「専務?ああ、あの若くて頭のキレる専務か…」
「高梨准一…さん…ですね。」
名刺を確認し、名前を読み上げる。