「同じ空の下で…」

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「お前には野心がない」





目の前の爺ちゃんは、小さな瑠璃色の御猪口を口に運び、それを飲み干し俺を見据えると静かに口を開いた。


野心て、なんだ。

生きるのにそんなに必要なのか?


あざ笑うように俺は足を組み直した。

「じゃあ、他の奴に譲ればいいじゃん。何で俺が兄貴の替わりなんだ。」





じいちゃんの代で旅館業を成功させホテル経営へと飛躍させ、俺の親父の代で、レストラン事業を成功させ、本来なら、10歳上の兄貴の代でもっと飛躍するはずだった。


兄貴はエリート校といわれる附属校の小等部へ必死に勉強して合格し、入学後も常に成績は優秀で、親の期待を背負って生きていた。

そのまま大学へ進学し、無事卒業すると親父とじいちゃんの期待を背負い、会社経営に携ることになる。



その兄貴が…家業に携わった丁度1年後、誰にも告げずに失踪した。



じいちゃんと親父の重圧と従業員側の板挟みに耐えられなくなったのじゃないか…と、従業員が噂していた。

小さい頃から勉強漬けで親の期待に応える為に生きてきたんだろう。

その証拠に俺は幼少の頃から兄貴との思い出がない。




優秀なその兄貴が失踪すると、矛先は俺に来た。

それまで自由に生きて来ていた俺には

迷惑な話だった。


じいちゃんと親父には、当然の如く、頭が上がらない。

今自分がここにあるのは、どう考えたって、この2人の存在ありきの事である。









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