「同じ空の下で…」
「ふーん…」
そう親父に聞かされた時、俺は軽く受け流していた。
大体、俺じゃなくても、自分らの部下にはもっと出来るヤツが転がってるだろうが!
何で俺が行かなきゃならないんだ!
現状維持で構わない現実主義者の俺にどう変わってほしいというのだろうか。
簡単に断ろうと思っていて、先延ばしにしていたのは言うまでもない。
それが、先日、ジェームスがわざわざ俺に会いに日本へ来日すると、親父に連絡が入ったらしく、これをきっかけに、返事をしろと、今日、この割烹料理店へ呼ばれた。
「ジェームスへは、断りの返事をしようと思ってる。」
「…そう結論づけた理由は…何なんだ?」
少し眉を上げて親父が俺に問う。
「好きな女がいる。」
「そんな事で、自分の人生を棒に振るのか?」
「俺の人生だ。親父の人生じゃない」
俺は冷静に且つ、淡々と話す。
親父は緩やかに…そして馬鹿にしたように俺を見ると、表情を崩しながら俺に言った。
「まあ、いい。…ジェームスは明後日、他の日本人クルーとの打ち合わせの為、来日するそうだ。お前、会ってこい。ちゃんと彼と面と向かって、腹を割って話すといい…。」
「分かったよ。」
「明日、金沢に行ってこい。部屋は手配する。」
そこまで黙っていたじいちゃんは、俺を見ずにその瑠璃色の御猪口をまた口に運び、口を開いた。
「女にうつつを抜かし、又とないチャンスを棒に振るとは、岡崎家の恥さらしだ。」
そういうと、その部屋を出て行った。