「同じ空の下で…」
亮太の手を思いっきり振り払い、その日に限り、私は亮太の頬をたたき返した。
『予想外』とでも言いたそうに、亮太が私を見る。
それは…今まで見た事のないような冷酷な瞳で、まるでビー玉のように、感情の欠片も見当たらない瞳だっだ。
「あたしは、何回この痛みを味わったと思う?!痛いでしょ?痛いでしょ?
叩かれて、痛みを感じるでしょ?!そう、私は、痛みを感じる。そして、心も痛みを感じる…。その意味、わかる?!私には感情があるのっ!ここにだって感情あるっ!亮太の思う通りに行かないからって、毎回毎回叩かれて、痛いのっ!ここも、ここもっ!!」
頬と、心臓のあたりを押さえながら、感情があることを必死で訴える。
…力で及ばない…ちっぽけなあたしにできる事は…所詮…この程度だった。
「あたしは、亮太の人形じゃない、ペットでもない。人間だよ!?亮太と一緒に居て、今まで…人間として扱われた気がしないっ!!」
息を切らしながら、私は言い放った。
「だから、別れたい!!!!」
そう言い放つと・・・・
胸の中で何かが、ずっと閊えていた何かが…
すぅ~…っと音をたてて抜け落ちたような気がした。
それはまるで、張りつめていた風船が
…静かに時間をかけて…萎んでいくかのよう。
ここまで言うと、
その場にヘタヘタと腰がぬけたように、
萎んだ風船の如く、
床に座り込んだ。
涙が出そうになるのを必死にこらえる。
そしてまた、亮太が…襲ってきそうな気配を感じる…。
こうしては、居られない。
逃げなくちゃ…
自分の足で歩かなくちゃ…
亮太から逃げるようにして、適当に大きなカバンを手に取り、必要最低限のものを乱雑に詰め込んだ。
普段あまり履くことの無かったスニーカーをシューズクローゼットから出し、急いで履くと、その扉を開け木枯らしの中、アパートの階段を一気に駆け降りた。