「同じ空の下で…」
渡米まであと1か月余り…────。
はっきり言って、こんな悠長にお礼廻りなどしてる時間の余裕は無い。
誰かに任せてもいい話だったが…敢えて俺は自分から買って出た。
『あ、艶香と一緒に廻りたいんだろ?』
電話の向こうで嘉斗に茶化されるが、それは違う。
「…俺自身が自分にケジメつけてあっちに行きたいからさぁ。立つ鳥跡を濁さずって言うだろ?そういう意味で俺が廻った所は俺が廻る。そこはそうさせて貰いたいんだ。」
親父や爺ちゃんに貰ったコネは、やはり自らお礼に出向かないと気が済まなかった。
帰国したら、絶対にまたお世話になるだろう相手だ。
艶香と一緒に……なんて時間は俺にはない。
はなぶさ つやか。…かぁ。
あいつの顔を思い出すと、自然に顔が綻んでしまう。
そいつは何処にでもいるようなチョコレートブラウンのセミロングの髪ととび色の瞳を持つ女だった。
何処にでも居そうな女とちょっと違う所は…
古風な雰囲気と気の強さを象徴する生意気な目つきと、瞳の輝き…かもしれない。
艶香の瞳は、澄んでいる。
…なんて言うか、俺の理想の女性像にピッタリ嵌った女だった。
だからと言ってその日に彼女に好意を持った訳ではなかったが。