「同じ空の下で…」
言われた通りに私は素直に反対側の道路に目を向けた。

すると、一台のステーションワゴンがハザードランプを点滅させて停まっおり、その運転席でタケルが電話を片手にしてこっちに手を振っていた。

「車の方においで?送るから。」

「ありがと~!!助かるっ!」

電話を切ると、さっき閉じたびしょ濡れになった傘をまた開き、反対車線の路肩を目指して全力疾走した。

助手席側に廻るとドアを開ける。

「早く乗ってよ。濡れるだろ?」

「うん。ほんとありがと!」

普段は、そんなに急いで行動なんか出来ないのに、その時だけは見事な程素早く傘を閉じて3秒くらいの速さでタケルの助手席に乗り込むとドアを閉めた。

そして肩で息をしながら、濡れてしまった頭と肩をハンカチで拭いた。


「お疲れさん。たまたま通りかかって艶香を見つけた。今、帰り?」

「うん。タケル、通りかかってくれてありがと~♪」

タケルは微笑むと、ハザードを消し、車を発進させた。

服も髪もびしょ濡れ、更には顔にも雨が当たって全く傘を差してる意味など無かった。
丁寧にハンカチであちこちを忙しく拭くが、ハンカチにだって限界がやってくるもので、水分を多く含んだハンカチは既に機能を果たせなくなっていた。


「後部座席にタオルあるから、使っていいよ?」


本当にタケルって…男の癖に気が利くし、優しいヤツだなぁと、無言でタケルを見ると微笑みを返した。
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