「同じ空の下で…」

自分のパソコンを立ち上げると、手鏡を取出し、自分の顔を見てみる。

何も変わってない。

いつも通りの私だ。

軽く首をかしげながら香織さんを見ると、にんまり微笑んで


「恋ね。…恋してるんだ。」

と、ニヤニヤしながら見ていた。


「…そんな、そんなんじゃないですよ…。」


慌てて手鏡をしまうと自分の心を隠すかのようにパソコンの画面を凝視した。



特に化粧の仕方を変えたとか全く特別な事はしてないのにそんな事を言われる事すら、理解できない。






勤務中、常務に頼まれた書類を3階のフロアに届ける際、相変わらずエレベーター恐怖症から解放されない私は社員用の階段をゆっくりと歩いていた。


数年前のとある雨の日。
この階段が濡れていて滑って階段から数段落ちた事がある。
…それから階段は、どんなに急いでいてもゆっくりと昇り下りをする事に決めている。


「こんにちは。」


足元を気にしながら歩く自分に声をかけてきたのは、眩しい位にオーラを纏った高梨准一だった。



てか…社員用階段に何故彼が居るんだ?



「…こ、こんにちは。…お仕事ですか?」


びっくりした私は、仕事でしかここには来ないであろう人間に、うかつにも仕事ですかなどど、バカげた事を聞いてしまっていた。


「営業本部長に会いにきました。」


「本田さん?」


「…そうです。…ああ、英さん、なってないなぁ。」


「えっ?」
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