「同じ空の下で…」

「自分の会社の上司を″本田さん″なんて来客者である僕に言ってはいけなじゃないですか。…秘書である貴方は…特に。」


「…あ、す、すいません…。」


私は顔を赤くして俯いた。

高梨は、軽く笑い声を響かせると、

「…冗談ですよ。真に受けないでください。」

と、私に笑いかけてきた。
その笑顔は眩し過ぎて、はっきり言って直視できない。

前に会った時はメガネなんてしていなかったのに、今日のセレブ高梨は縁のないレンズだけのメガネをしていて、知的な人間そのものだった。


「…先日、お会いした時と雰囲気が変わりましたね。」

「そんな事、ないですよ。高梨専務様こそ…。」

「眼鏡は、外回り用です。…一瞬、英さんじゃないかと思いました。」

「そうですか?…多少、痩せましたけど…」

「痩せたとか太ったとかじゃなく、なんていえばいいのでしょう…。美しくなれられましたね。」


「えっ?!」


「見惚れてました。…なので敢えて苛めたくなってしまいました。」


「は…はぁ?!」


「では、私はこれで。」


そう言い残し、セレブ高梨はオーラを纏い更にはオーシャンマリンの残り香を漂わせ階段を昇って行った。


その背中を、不思議な思いで見送った。




…見惚れていた?

どんなに周りを見渡したところで社員用階段には今、私しかいないし、さっき迄だって周りに誰も居なかった。


セレブ高梨は、誰に見惚れていたというのか…。って、私????


あり得ないあり得ない…あってはならない事である。


< 346 / 646 >

この作品をシェア

pagetop