「同じ空の下で…」
「自分の会社の上司を″本田さん″なんて来客者である僕に言ってはいけなじゃないですか。…秘書である貴方は…特に。」
「…あ、す、すいません…。」
私は顔を赤くして俯いた。
高梨は、軽く笑い声を響かせると、
「…冗談ですよ。真に受けないでください。」
と、私に笑いかけてきた。
その笑顔は眩し過ぎて、はっきり言って直視できない。
前に会った時はメガネなんてしていなかったのに、今日のセレブ高梨は縁のないレンズだけのメガネをしていて、知的な人間そのものだった。
「…先日、お会いした時と雰囲気が変わりましたね。」
「そんな事、ないですよ。高梨専務様こそ…。」
「眼鏡は、外回り用です。…一瞬、英さんじゃないかと思いました。」
「そうですか?…多少、痩せましたけど…」
「痩せたとか太ったとかじゃなく、なんていえばいいのでしょう…。美しくなれられましたね。」
「えっ?!」
「見惚れてました。…なので敢えて苛めたくなってしまいました。」
「は…はぁ?!」
「では、私はこれで。」
そう言い残し、セレブ高梨はオーラを纏い更にはオーシャンマリンの残り香を漂わせ階段を昇って行った。
その背中を、不思議な思いで見送った。
…見惚れていた?
どんなに周りを見渡したところで社員用階段には今、私しかいないし、さっき迄だって周りに誰も居なかった。
セレブ高梨は、誰に見惚れていたというのか…。って、私????
あり得ないあり得ない…あってはならない事である。