「同じ空の下で…」
振り返り、思わず高梨の顔を見る。

2人きりのこのエレベーターの中って言うのは…どんな状況であったとしても…

落ち着かない。

「この後…いや、定時後のあなたのご予定は?」

「いえ、特には…。」

「じゃ、またあの店で待ち合わせませんか?」

「…あの、どうしてですか?」

「どうしてですか…って、理由が必要ですか?」


セレブ高梨は、おもむろに苦笑した。


さっきから何なんだろうと…口走りそうになる。


「からかってるなら…やめて下さいませんか?」


さりげなくメガネを外し軽く溜息をつき、前髪をかき上げるその仕草に思わずこちらが見惚れてしまいそうになり、また慌てて階層を告げるボタンに、また目線を移す。

背後から聞こえる、セレブ高梨の質の良い声のトーン…。


「からかってなんか、いないですよ。あなたに興味が湧いただけの事です。…まだ理由が必要ですか?」


…何を言ってるんだ…本当にこの人は…。

金持ち坊ちゃんの考える事は、本当に理解できない。



「…ま、いいですよ。一人で飲むコーヒーなんて慣れてますしね。無理にお誘いはしません。気が向いたら来てくれればいい。不快な思いをさせてしまったみたいで、申し訳なかったです。」


そう言い終わると同時に、到着階を告げる音が、箱の中に響き渡った。


「…そ、そんな、不快だなんて…。」


先に降りてしまったセレブ高梨を追うように、私も降り、彼の背中を追いかけた。

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