「同じ空の下で…」
「ちょっ、ちょっと…待って下さい!」
慌ててやっと彼の顔を見上げるが、彼の顔は前を見て居て、全くどんな顔をしてこんな行動に出て居るのかが分からないままだ。
「…離してっ、離して下さいっ!」
全力で腕を振り払おうとするが、大人の男の力っていうのは、どうも太刀打ちできない。
抵抗したって無駄なんだと見切った私は仕方なく、彼の歩幅に合わせて、歩き出した。
捕まれている腕が、少し…痛い。
手加減ってものを、知ってるのだろうか?
橙色に染まる会社前の広場は、帰宅する社員が足早に歩く姿や、友達とおしゃべりしながら、ベンチに座る女子社員が見える。
こんな変な状態で歩いているのは、前にも後にも私達ぐらいだろう。
ここで…颯爽とバイクで現れて私をさらってくれる瞬が居てくれたらと、儚い夢を描いてみる。
…現実には、絶対に…あり得ない事だ。
「はぁ…。」
大きく、ため息をついた時、やっとセレブ高梨の足が止まった。
突然止まるもんだから、思わずぶつかりそうになり、私も慌てて足を止める。
「強引な真似してすいませんでした。」
そう話すセレブ高梨の顔を見上げてみれば、まったくすまなそうな顔は見当たらず、むしろ楽しそうな顔で私を見ているではないか。
やっぱり…私はからかわれているんだ…と、咄嗟に思った。
「いいえ。別に。」