「同じ空の下で…」
「あ、あの…め、迷惑なんです…。」
声を振り絞って、やっとの事で私はセレブ高梨の顔を見て、はっきりと申し上げた……つもりだった…。
「迷惑をかけるような事はしませんよ。」
私の勇気は一体何だったのか…。
セレブ高梨は表情を崩す事なく、まるで楽しい何かを見るような優しい顔で私の顔を見ていた。
これ以上、何を言ったらいいのだろう…。
いや、言える言葉なんて沢山あると思うんだ。
嫌いとか、興味がないとか…人を寄せ付けない言葉なんて沢山あるはずなのに、この状況では全く浮かんで来ず、更には頭の中が真っ新になってしまったのだ。
「英さん。」
声を出さずに、私は目で返事をするかのように、彼の顔を見上げた。
「今、楽しいんです。やはり、貴方と居ると、普段封印している僕の中の何かにスイッチが入るらしい…。また、お誘いしますね。」
無言のまま、私は首を横に振る。
「会うキッカケなんて沢山作る事ができますからね。だから、この場で連絡先を聞こうなんて野暮な事は僕はしないでおきます。…次会えるのを楽しみにしていますよ。」
やっとの事で、震える手でマグカップを口に運びかけたのに、吹き出しそうになる。