「同じ空の下で…」
頭のキレる男と言われているだけあり、やはり手強さを感じる。
…なんて、知ったような事を思ってしまうが、彼の封印していたスイッチを押してしまっている私が一番悪いって事で、自業自得なのであろう。
涼しい顔をして私を見る高梨准一。
さっきとは違う、優しげな眼差しで私を見ている。
咄嗟に目を逸らして、一口だけ残った生温いマキアートを飲み干すとバッグの中をワザとらしく探り、帰る仕草をしてみせた。
「お帰りですか?」
「はい。」
椅子からゆっくりと丁寧に立ち上がると、同じ速さで向こう側の高梨も立ち上がった。
「あの…高梨さんは、どうぞごゆっくりと…されていて…。」
「駅まで送ります。」
にこやかに笑いかけるその笑顔に、思わず引き込まれてしまいそうになる。
流石、女子社員からの人気を博すだけあるなぁと、感心してしまう。
私が今、恋人と呼べる相手が居なかったら、完全に虜になってしまいそうだ。
私の前をスタスタと完全なる容姿で歩き、店内のドアの前で立つと、
「お先に、どうぞ。」
と、エスコートまでされてしまう始末。
「す…すいません。」
頭を軽く下げて、先に店の外へ出る。
店の外は、梅雨特有の蒸し暑さを湛えた夜闇が拡がっていた。