「同じ空の下で…」
駅が見えてくると、私は足を止めた。
「高梨さん、ここで結構ですよ。」
「時間が経つのは早いですね…。もう駅に着いたのか…。」
「今日は、ご馳走様でした。」
「いいえ。貴重な楽しい時間をありがとう。またお会いしたい。」
「…申し上げた通りです。もう、このような事は…。」
「迷惑はかけません。貴女とまた、時間を共にしたい。また会いましょう。」
「…あの…それは…だから無理ですって…。」
その抵抗の言葉は虚しく、高梨は私ににっこりとほほ笑むと、
「お気をつけて。」
と、言葉を遮り、不適に笑った。…というか、よく瞬が見せる表情に似ている『悪戯を企む表情』で笑いかけた。
腑に落ちないまま、私は駅への道を足早に歩き、改札前まで来たあたりでもう一度後ろを振り向くと、高梨がオーラを纏ってこちらに向かって手を振った。
恥ずかしさを含めながらも頭を軽く下げて改札を抜けると、逃げる様にして駆け足でホームへ向かった。
人生で言う…『モテ期』が到来したとしたって、相手が悪すぎる…。
あんなにあきらめの悪い人などごく稀な気さえするし…。
いや、決して悪い相手ではないのだが…今、遠距離恋愛真っ最中の私にとっては…、迷惑な話だった。