「同じ空の下で…」
"雨が似合う女性"
…と言ったら失礼かもしれないが、
雨模様の背景を纏った彼女は、実に美しかった。
…感情に気づく間もなく、彼女の姿を目で追って居た。
窓を開け、声を掛けたら気づいて貰えるだろうか?
彼女に目を奪われて居た。
目を逸らせずに居た。
視界から消えると、その姿を見えなくなるまで目で追った。
仕事だったのだろうか?
これから、恋人にでも会いにいくのだろうか?
だとしたら、決して急ぐ様子すら見当たらない。
そして大した荷物も無く軽装だった。
休日だというのに、オフィス街をのんびりと嬉しそうに散歩する人間なんてそうそう居ない。
暫く『恋』なんて言葉からかけ離れた生活をしていた俺は、渋滞に巻き込まれながらさっき見た彼女の美しさを脳裏に蘇らせて想う。
「…恋かもしれないな。」
一人、車内で呟いた。
少しだけ前に車を進めながら、気が付いたら彼女の事ばかりを考えていた。
後を追い、話しかけたいとも思った。
だけど流石にその行為には抵抗を感じ、車の進路を変えずに、いつも通りの自分の部屋へと車を走らせた。