「同じ空の下で…」
割烹料亭に一人で待つのも、何処か心細いような気がしていた。
大体、そんな所に出向くのも親戚の法事以来だったので、久しくマナーとかを熟知していなかったのが正直な所。
色々と振る舞いを熟知しなければいけないとは分かっていつつも、何だか面倒臭くなって、調べる事をやめると、パソコンを静かに閉じた。
きっと、何とかなるはず…。
その晩は、少し念入りに肌の手入れをして翌朝に備えた。
眠る支度を済ませると、ベッドに仰向けになり、手元のリモコンで照明を落とす。
────翌朝。
今にも雨が落ちてきそうな、厚い雲に覆われてる空を見上げる。
いつかの見た光景に似ているその空を見て、深呼吸をして静かに目を閉じると瞬の事を思う。
ぼんやりと外を眺めて、頭の中の起動スイッチを心の中で押すと、ゆっくりとベッドから降りた。
AM8:16。
洗面所に行き、鏡を見ると、おもむろに顔を濡らした。
化粧水を叩き込み、少し薄目に化粧を施した。
『口を半開きでリップを塗り直す艶香の横顔…』
リップを塗る瞬間、瞬の言葉を思い出す。
…今朝は何だって、瞬の事を思い出す事が多いんだろう。