「同じ空の下で…」
常務は目を細めて遠くを見つめた。
私は前を見直し、少しだけ体をずらして座り直すと、運転手さんとルームミラー越しに目が合う。
「45年ですか…。並大抵では成し得ない年月のような気がします。」
運転手さんも話に加わる。
「立ち入った事を尋ねるのは失礼だが、英君は、そろそろそういう相手が居てもおかしくないと思うのだが…、予定はあるのか?」
…ストレートに、「彼氏、いんの?」「結婚しないの?」と、聞かれた方がまだマシだなぁと思いながら、必死に言葉を探した。
「結婚の予定はありません。…お付き合いをしている人は居ますが、まだその様な状況にお互いになってないと言うか…。」
私は敢えて語尾を濁し、静かに足元に目線を移した。
「そうか。…そろそろ身を固めてもいい歳だろうと年寄り染みた事を言うが、本人同士の気持ちが何よりも大事だからな…。…実は今日、英君には代理として同行してもらったんだ。紹介するはずの娘さんが、急遽体調を崩されて入院をすることになってだね…。先方に断りの連絡をするタイミングを逃してしまってだね…。」
今度は反対に常務が語尾を濁し始めた。
「…あの、どういう事でしょうか?」
俯いていた顔を咄嗟に上げ、常務の顔を見た。
「これから会う相手は、見合い相手だ。今日の会食とは名ばかりで、お見合いとして、先方と会って欲しいのだ。決して失礼な相手ではないし、気軽に接してもらって構わない。…大丈夫かな?」
「…しょ、承知…しました・・・・。」
何、ソレ…。