「同じ空の下で…」
バイクの主は、ヘルメットを外し私に言う。

「はい、後ろ、乗ってね」

サングラス越しで、目がよく見えないその人は、私に後ろに乗るように命じ、ヘルメットを渡した。

私は・・・・身構え、固まる。

「早く乗ってくれません?」

無言でヘルメットを被り、後ろに跨る。

「ちゃんと、つかまってろよぉ」

そう言い、私の腕を強引に、自分のおなかに絡ませた。

私は慌てて手を離し、バッグを持ち直してその人と自分のおなかの所に挟んだ。

そして、また、手を絡ませた。その動作が終わったと同時に、辺りにはエンジン音が響き渡り、爆音を立ててバイクは走り出した・・・。
会社帰りの我が社の社員を含めた周囲の目線が、こちらに向けられてたのがヘルメット越しに見えた。

気にする様子もなく、瞬はその場を走り去る。

・・・・本当に、なんなんだ・・・・。この人は・・・・。



頭に来てたはずなんだけど、今、この手を離したら、振り落とされそうな気がしてならない。

「瞬・・・・しゅーーーーーんっ!」

「なんだぁーーーー?」

「私は、自分で歩くから・・・・次の信号でおろしてーーーー!」

「いやだねーーーーー!」


大声で会話しなければまったく何も聞こえない。

目的地(そもそもどこが目的地なのかわからなかったけど)に到着したあたりには、私の声はややかすれ気味になっていた。

やっとの事でバイクは止まり、私はやっと降りる事が出来た。

なんだか足が…ジンジンして変な感触だった。


「よし、行くか。」



ヘルメットを外し、着いた所をあわててみると、リストにあったうちの一件の会社だった。

「俺が、昼間のうちにアポとっておいた。そしたら、18時まで社長が居るっていうから、急いでみた。」

「あ…、そうだったんだ。あ、あ、あ…りがと。」

少し、捲れ上がってしまったスカートをあわてて直しながら、瞬に礼を言う。

『荒削りだけど』

そう、いつかタケルが言っていた事を思い出す。


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