「同じ空の下で…」
「本当…に?幻滅したでしょ?今の私に…」
ティッシュを手に取り、私は涙を軽く押さえながら、鼻のあたりに自然と落ちてくる鼻水を静かに拭き取った。
「…かっこ悪くたっていいと思うよ?着飾る必要なんてない。スッピンのままの艶香で、いいと思う。」
「やだ、ノーメイクで会えって事?」
「そうじゃないよ。…心の中はスッピンのまんまでいいって意味だよ。自分の気持に化粧を施す必要はないって事。わかる?」
その意味は…何となく、分かる気がした。
心の中を相手に伝えようとするときに、何も脚色する必要はない。
想いをただ伝えればいい。それが、本能に従うって…事なのかもしれないと。
「艶香に、幻滅してないし、何も期待してないよ。良ければ明日、気が向いたら連絡頂戴。」
「…うん、分かった。」
「少しは、落ち着いたか?」
「うん。…タケル、ありがとう。」
「こっちこそ、こんな時間にごめんな。」
「ううん、いいんだ。」
「じゃ、明日。…おやすみ。」
「うん、おやすみなさい。」
タケルは電話を切った。
私は、少しだけ残った涙をふき取り、鼻を噛んで深呼吸をした。
恥ずかしいけど、情けないけど…。
…静かに目を閉じて、右側へ体を向けた。
想いを吐き出した安堵感で、やっとの事で眠りについた。
ゴメン、タケル。
ゴメン、瞬。
私は完全に…距離に、負けそうでした。