「同じ空の下で…」

「本当…に?幻滅したでしょ?今の私に…」

ティッシュを手に取り、私は涙を軽く押さえながら、鼻のあたりに自然と落ちてくる鼻水を静かに拭き取った。


「…かっこ悪くたっていいと思うよ?着飾る必要なんてない。スッピンのままの艶香で、いいと思う。」

「やだ、ノーメイクで会えって事?」

「そうじゃないよ。…心の中はスッピンのまんまでいいって意味だよ。自分の気持に化粧を施す必要はないって事。わかる?」

その意味は…何となく、分かる気がした。

心の中を相手に伝えようとするときに、何も脚色する必要はない。

想いをただ伝えればいい。それが、本能に従うって…事なのかもしれないと。


「艶香に、幻滅してないし、何も期待してないよ。良ければ明日、気が向いたら連絡頂戴。」

「…うん、分かった。」

「少しは、落ち着いたか?」

「うん。…タケル、ありがとう。」

「こっちこそ、こんな時間にごめんな。」

「ううん、いいんだ。」

「じゃ、明日。…おやすみ。」

「うん、おやすみなさい。」


タケルは電話を切った。

私は、少しだけ残った涙をふき取り、鼻を噛んで深呼吸をした。

恥ずかしいけど、情けないけど…。


…静かに目を閉じて、右側へ体を向けた。

想いを吐き出した安堵感で、やっとの事で眠りについた。


ゴメン、タケル。

ゴメン、瞬。

私は完全に…距離に、負けそうでした。

< 418 / 646 >

この作品をシェア

pagetop