「同じ空の下で…」
お茶を2つ準備してトレイに乗せ、また常務室へと歩く。
片手で常務室のドアをノックして、重厚なそのドアを開けると、なるべく彼の顔を見ないようにしながら、テーブルの上にお茶を置いた。
「英君も、ここに掛けたらいい。」
「えっ…」
常務に声を掛けられ、一瞬固まる。
常務の顔から静かに高梨の顔へと視線を移すと、にっこりと目を細めて笑い、手で合図するかのように、席に座るように促した。
仕方なく、高梨の手の先である、高梨の向かい側に座り、借りてきた猫の如く、静かに二人の話を聞いていた。
何で私もここに同席しなければいけないのか。
2人はさっきから小難しい話ばかりしている。
…と言っても、話してる内容など全く頭に入らない。
退屈そうに見えたのか、否か、眼鏡を静かに外すと高梨が私の視線の中にワザと入ってきて、私の目の前で、白くて長い、血管が浮き出た綺麗な手を振っていた。
「艶香さん、聞いてます?」
「…は、はい。聞いてます。」
「じゃ、貴方の予定の無い週末に合わせましょうか。」
「えっ?な、なんの事でしょうか?」
「…本当に、我々の話をちゃんと聞いてましたか?」
少しだけ厳しい顔をする高梨の眼力に、私は耐えきれず、小さくスイマセン…と謝った。
「船に乗りませんか?」