「同じ空の下で…」
突然の高梨の話に、私はまた高梨の顔を見た。
少し、寂しそうな瞳。
長いまつ毛が伏し目がちになるが、口角は無理に笑みをたたえていた。
このタイミングで、そんな事を話すなんて…反則だ。
茜色を背景にする高梨の横顔が、妙に絵に描いたようにくっきりとした絵画のように目に映り、私はそのまま釘づけになってしまう。
さっきから頭にガンガンと血が巡ってきていて…上手く呼吸が出来ない。
酸欠になりそうな程、鼓動が早くなって、それを自分で自制できず、戸惑いすら感じた。
「今の母は、僕が中学の時に母になった人です。」
「本当の…お母さんじゃ、ないって事ですか?」
「『育ての親』が、今の母。『生みの親』は、病気で亡くなりました。僕が小学生の頃。その日は、丁度、あの日に似ていた。」
「…あの、雨の日?」
その問に、相変わらず伏し目がちな高梨は、小さく頷く。
形の良い唇の口角は、相変わらず無理に笑っているように見えた。
「激しい雷雨…轟く雷鳴…。しきりに容赦なく降りしきる…雨。あの日にそっくりでした…。だから思わず、貴方の手を握り締めていた。」
「・・・・。」
「不安になるんです、自分がたった一人この世に残されたような気がして。あの頃の父は、仕事一筋で家庭を顧みるような人間ではなかった。」
夕焼けが映し出す彼の横顔を見つめながら、私はただただ高梨の話に耳を傾けるのが精いっぱいだった。