「同じ空の下で…」
小刻みに震えながら、私の手を握り締めていた高梨の、あの日の手の感触が蘇って来る。
「…そうだったんですね…。」
「格好わるい所を見せてしまった。あの時は申し訳ありませんでした。」
「い…いいえ。」
突然直視され、私はどぎまぎしながら、高梨から目を逸らした。
車内に沈黙が流れ、私は高梨に掛ける言葉を必死に探した。
「不思議だったんです、あの時の事。何があったのかなぁと…。今日、その理由が聞けて良かったです。」
…あたしは一体何、訳の分からない事をいってるんだ…。
こんな言葉が彼の励ましになる訳でもないし、不安要素を取り除くわけでもない。
「あの時には、まだ貴方に話せなくて…。だけど、失礼な事をしたとずっと気に掛かってました。」
「…話していただいて、ありがとうございます…。」
…本当に、あたしは何的外れな事を話してるんだ…。
一人、自分の胸の内で自己ツッコミしながらも、適切な言葉が見つからず、軽くジレンマを感じていた。
「間もなく到着致します。」
なんとも言えない絶妙なタイミングで、運転手さんが話してくれて、私は救われる。
バッグを膝の上に乗せ、抱えるようにして、その場に到着するのを待った。
着いた所は、有名な高級ホテルだった。
着いたその場所を見上げて、私は生唾を飲み込む。
頭の中に過る後悔の念…
″必死に…振り切って逃げれば良かった…″
瞬が居ない間に、こんな高級ホテルに男と二人きりで来るなんて事実…。
確実に・・・・あってはいけない状況になってしまったのだ。