「同じ空の下で…」
「ありがとう。」
そう運転手に頭を下げる高梨に続くようにして、私も頭を下げた。
「アリガトウ…ゴザイマス…」
運転手さんがそれに応えるようにして軽く会釈をすると、黒塗りのその車は目の前から静かに走り去っていった。
本格的に…高梨と二人っきりになってしまった…某高級ホテル前。
煌びやか且つ上品に輝きを放つエントランスの電飾。
間接照明の灯りが、やけに心地よく感じるオレンジ色の空間。
いかにも上流階級の人間達が行き交う…ホテルのロビー。
その背景に自然に馴染み、溶け込んでいる…高梨の広い背中と彼から滲み出ている…オーラ・・・・。
「ねぇ、高梨さん…」
小さな声で私は彼を呼び止める。
幸い、この声が彼にもちゃんと聞こえたらしく、目の前を歩く高梨は、無言で振り返り、ただただ茫然と立ちすくんでる私を何も言わず直視した。
「…帰ります…。」
そう言って走り去る事が出来る程の勇気は持ち合わせていなくて、足に根が生えたように、俯いて一歩もそこから動けなかった。
ずっと俯いたままの足元に、高梨の影が近づくと同時に、私の腕を捉えてそのままエントランスに向かって歩き出した。
ここで、前みたいにもたもたしていれば、確かにこのベルボーイ達は私と高梨の様子をただ事には思わないであろう…。
咄嗟にそう思った私は、彼の歩幅にあわせて歩いた。